西尾 雄志さん
近畿大学准教授
■民主主義の存在意義が問われている
今、国連持続可能な開発目標(SDGs)が非常に注目されています。大学にいてもSDGsに対する取り組みをやるようによく言われます。
SDGsの前身が2015年までのミレニアム開発目標(MDGs)ですが、これはかなり目標達成したのも事実です。例えば極度の貧困の解決とか、初等教育へのアクセスとかですね。もちろん極度の貧困の解決といっても貧困がゼロになっていないからSDGsがあるわけですが、どうしてMDGsがそれなりにうまくいったかは検証しないといけないでしょう。
大きいと言われているのが、中国やインドの経済的な成長ですが、それが主たる要因だとしたら市民の努力はどうなのということになりますよね。
新型コロナウイルスに対する対応にしても、民主主義体制でなく、「民意」に振り回されない中国の方がうまく対応できたように見えます。中国からの留学生の人にも言われたことがあるのですが、「民主主義は欠陥があるんじゃないか」という疑問に対して答えるのは簡単ではありません。
ドイツの社会哲学者のハーバマスは、単に世論調査や選挙だけでなく、市民が考え、議論していくプロセスが重要であると強調しています。ハーバマスの強調する「公共性」は、行動性と言論性に大きくは分けることができると思いますが、コロナで行動が制限される中、言論における公共性を活性化していく必要があると言えるでしょう。
それは単に政府やメディアを批判することだけではありません。特にコロナに関しては、政治的な立場云々の前に、科学的な事実をきちんと押さえる必要があります。社会が不安定化すると、すぐに「答え」を求めて断定的な言説にすぐに飛びついてしまいがちです。若干教科書的な話になりますが、必要な情報を自分で取り行き、「よく分からないもの」を吟味しながら考え続けることが重要になってきます。
■社会に対する決定的な不満がない?
社会変革に対するうねりが市民から出てこないのは、今の日本社会がいろいろ問題はあったとしても、おおむねうまくいっていると感じている人が多いからなのでしょう。リスクを取って何かの変化を起こすよりも、現状維持を選択しているわけです。
今の大学生がボランティア活動に参加する動機を見ても、「いろんな人に会いたい」が一番多く、社会変革的なものはほとんどありません。
独立行政法人国立青少年教育振興機構「大学生のボランティア活動等に関する調査」(2020年3月)
https://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/142/
私はハンセン病問題にかかわってきましたが、その活動に参加する学生も「おじいちゃん、おばあちゃんが優しかった」というような感想で終わってしまい、なかなか問題の構造的な理解やその後のアクションに繋がらず、もどかしい思いをしていました。
ただ今ふり返ると、急ぎすぎていたのかもしれないと反省しています。活動してから、その人の中に問題意識が形成されるには5年や10年かかるかんじゃないでしょうか。それなのに、プログラムの後すぐにできることを期待し過ぎていたのかもしれません。
きっと、ボランティア活動のあと、いろんな人たちと話し合ったり、他の人の行動に刺激を受けたりする「発酵」の時間が必要なのでしょう。また実際に行動を起こし、他の人を巻き込んで団体や組織を作っていった際も、すぐにスムーズに動くわけではないことが多いです。
この辺りは今後の研究のテーマでもあります。
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